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論評する価値無し
Excite エキサイト : スポーツニュース
あのシーンはショッキングだったし残念だと思いましたが、原因に対しては何ら興味を持っていません。しかし、この原因を躍起になって探ろうとする動きに対しては、少なからぬ違和感と懸念を抱いています。 まず、「あの温厚なジダンがあんなことをしたからには相応の理由があったはず」という取り上げ方は、無意味というより、前提からはっきりと誤りです。ジダンはもともとああいう「キレ癖」のある選手で、それは彼のキャリアをちょっと見れば分かることです。 トッププレイヤーと称される選手の中で、彼ほど暴力行為によるレッドカードを頻繁にもらった選手もそうそういません。イタリア代表には「壊し屋」的な選手が付き物で、それは今大会ならガットゥーゾであったり問題となったマテラッツィであったりするのですが、彼らにしてもラフプレーによる警告・退場はあっても、「試合中の暴力行為」はまずありません。 ジダンは、普段がどれだけ寡黙で謙虚で温厚な為人だったとしても、少なくともピッチ上では、プラティニというより明らかにカントナの系譜を継ぐ選手でした。 もっとも、カントナが常に感情を解放させるタイプだったのに対して、ジダンは寡黙から激怒への変貌が異常に早いタイプだった、という大きな差はありますが。 今回の件で、なぜか犯人はマテラッツィとでも言わんばかりの報道が為されているのは、多分に、フランス中の、そして世界中の人間が、「ジダンとフランス」という美しい物語の唐突なラストシーンに納得できなかったからでしょう。納得できないから原因を探し、関わった人物を吊し上げる。残念ながらよくあることです。 ジダンを失ったピッチで残されたフランス人選手10人が一致団結し、例えば若いリベリーやジダンとの付き合いの長いアンリあたりがゴールを決め、ベンチのジダンに駆け寄っていったなら……。それは観衆が納得する美しいラストシーンとなり、こんな騒動は起きなかったでしょう。 FIFAは「マテラッツィが何を言ったか」を調査するとか。 ……正気か? サッカーでは、少なくとも試合中は、ピッチ上で起き、審判が確認できたことが全てではなかったのか? 同様のケースで真相究明が為された、少なくとも真相を明らかにしようとした例を、私は寡聞にして知りません。接触が不可避なフィールドスポーツで、挑発行為や罵声などは日常茶飯事です。そして、選手同士の口論などは審判には聞こえないものです。だからこそ挑発などには乗ってはならない。その点であのシーンにおけるジダンは、過去に何度も同じことを起こしてきたジダンと同じように、完全無欠の愚か者でした。 納得できないという感情、そして一体何が原因なのかという好奇心、それらはいずれも理解できるものです。 ジダンはプラティニほど多くの個人タイトルには恵まれませんでしたが、ユベントスで、レアルで、何よりフランス代表で、「チーム・ジダン」はプラティニのそれより遙かに多くの栄光を掴みました。それはもう、カントナでは比較対象にもならぬほどです。 だからこそこうした事態が起きているのでしょうが、「マテラッツィがジダンの母親を」「マテラッツィがアルジェリアに住むジダンの従兄を」「マテラッツィがジダンの出自を」「マテラッツィがムスリムを」侮辱した、というのがさも所与の事実であるかのように語られているのは非常に不可解で不快な現象です。これらは、「そうあってほしい、それなら偉大なジダンのあの行為を許せる」という願望に過ぎません。「家族の中傷」「人種・宗教差別」は悪として、「ピッチ上の暴力」という現実の悪を、いくらかは相対化するでしょうから。 ジダンは、これ以上無責任な人々の好奇心の具になる義務はないと私は思います。 マテラッツィにしても、この件について責められるべきではないと考えます。 すべてはピッチの上で終わっていることです。 最後に、ジダンは愚かでしたが、ファンやサポーターにとっては、その愚かさまで含めて愛すべきジズーだったのではないでしょうか。彼を愛してきた人々は、彼が完璧などではないことを知っていたはずです。ジダンへの愛情と哀惜がマテラッツィへの憎悪に繋がるのであれば、こんなに悲しいことはありません。
by youz
| 2006-07-12 19:16
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